ステンレスとは?
12%以上のCr(クロム)を含む鉄の合金鋼
つまり、ほとんど鉄です。ですから、鉄の特性(さびる・磁石につく等)は、一見隠れていますが、条件次第で顔を出します。
▼ステンレスの腐食
外部の環境条件が厳しくて「不動態」を形成し得ない場合、鋼の表面からほぼ均一に腐食が進行。
局部的に「不動態皮膜」が破壊されるような条件のもとで発生する。鋼の表面から局部的に腐食が進行。
※腐食の現象は色々な要素が重なっている。従って一つの腐食が一つの名前の分類ではない事に注意してください。
腐食の名前には、「侵食」の形態を示すもの、「原因」を示すもの、「環境」を示すものなどがあります。従って、一つの腐食が、いくつかの名前の下に出てくることがあるのです。
例えば、「通気差腐食」によって「
孔食」という名の「
局部腐食」が発生する、といった具合です。
▼全面腐食(General Corrosion)
・マルテンサイト系ステンレス
高強度が得られることを特徴とするが、耐食性の点では、他の2系列より劣り、清浄大気中や清水中など比較的腐食性の弱い環境中でのみ、良好な耐食性を示す。
この系列に属するステンレスの耐久性は、鋼中の「炭素量」が低い程、また「クロム量」は高いほど安定します。
この耐食性は、「熱処理条件」によって著しい影響を受けます。
・焼入れした状態で最高
・焼なまし状態で最も劣る
また、500度付近での「焼戻し」は、クロム炭化物の析出により基質の有効クロム量が低下するので、耐食性の劣化を齎します。
・フェライト系ステンレス
耐食性は中程度なので、腐食環境が苛酷な化学工業など用いられることは少なく、家庭用電気及びガス器具、厨房用品など比較的弱い腐食環境に対する用途に使用されます。
※近年開発:
鋼中のクロム量を増やし、モリブデンを添加した極低炭素、低炭素ステンレス。
使用環境によってはオーステナイトにも勝る。
・オーステナイト系ステンレス
ステンレス系の中で耐食性が最も優れていますが、環境によっては「全面腐食」を生じる場合があります。
一般には「強酸性」或いは「強アルカリ性」で温度が高い時には、「不動態皮膜」が形成されずに全面腐食が生じます。
・「塩酸」はステンレスにとって最も苦手な環境である
・「中濃度ないし高温の硫酸」なども「全面腐食」を起こす環境である
●ステンレスの全面腐食に対する耐食性を向上させるには、主要合金元素である「クロム」や「ニッケル」の量を増加させる他に「モリブデン」や「銅」などを添加することが有効ですが、環境に応じた最適な「合金組成」を有する鋼種を選ぶことが大切です。
・腐食度(腐食の速さ):媒質の種類、濃度、温度によつて変わりますが、混入する不純物の種類やその濃度などの因子によっても著しく影響をうける場合があるので鋼種の選択には十分な注意を要します。
※ステンレスが錆びるのに、“もらい錆び”という現象があります。例えば表面に鉄粉が付着して、その鉄が錆びを生じ、放置しておくとその下部のステンレス自身に錆びが誘発されることがしばしばあります。はじめから鉄錆びが付着している場合も、同様な結果を招きます。従ってこのような錆びを防ぐには、ステンレスの表面を出来るだけ清浄に保つことが大切です。
▼局部腐食(Local Corrosion)
ステンレスの永年にわたる使用実績から、材料の寿命を決定するのは、「全面腐食」によるよりも、むしろ「局部腐食」の場合の方がはるかに多いことが明らかになっています。
イ)粒界腐食(Intergranuler Corrosion)/オーステナイト系ステンレスの粒界腐食
オーステナイト系ステンレスは、ある条件において結晶の粒界のみが優先的に腐食される現象がある。
ステンレスには炭素が含まれている。炭素はクロムと結合して“クロム炭化物(Cr23C6)”を作りやすい性質をもっている。450〜850度(特に650度付近)である時間以上加熱した時、この結晶粒界にクロムの炭化物が析出するため、その近傍にクロムの欠乏域が形成される。(炭化物になったクロムは不度態皮膜の生成には役に立たない。)
このため炭化した部分が局部的に耐食性が劣化して優先腐食の原因となる。
※
結晶粒界に沿った部分に連続的にクロムの足らない細い帯状の部分が形成される。このような状態になることを「鋭敏化する」という。
ステンレスを溶接すると、加熱温度のために溶接部の近くが鋭敏化するので、この部分に粒界腐食が起こる。このためSUS304などのステンレス鋼は溶接して腐食環境に使うのは不向きである。
溶接しなくても、加工中に鋭敏化しやすい温度に加熱する操作が入ると同様である。従って、上記の「鋭敏化」した状態で下記のような腐食環境に置かれると腐食を起こすわけである。
・粒界腐食を起こしやすい主な腐食環境:
(1)硫酸、酢酸などの酸性水溶液
(2)濃硝酸、クロム酸
(3)硫酸第二鉄、硫酸銅
●ステンレスの全面腐食に対する耐食性を向上させるには、主要合金元素である「クロム」や「ニッケル」の量を増加させる他に「モリブデン」や「銅」などを添加することが有効であるが、環境に応じた最適な「合金組成」を有する鋼種を選ぶことが大切である。
※『固溶化熱処理』を行うことが困難な場合:
・鋼中の“炭素含有量”を低下した鋼種「SUS316、SUS316L」等を使用する
・クロムよりも炭素との親和力が強い“チタン、またはニオブ(安定化元素)”を添加して鋼中の炭素を“TiC”または“NbC”の形で安定化した鋼種「SUS321、SUS347」等を使用することを推奨します。
・オーステナイト系ステンレスの粒界腐食試験法がJISで規定されている。
JISG 0571:ステンレス鋼の10%蓚酸エッチ試験方法
JISG 0572:ステンレス鋼の硫酸・硫酸第二鉄腐食試験方法
JISG 0573:ステンレス鋼の65%硝酸腐食試験方法
JISG 0574:ステンレス鋼の硝酸・フッ化水素酸腐食試験方法
JISG 0575:ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験方法
いずれの試験も鋼の「固溶化加熱処理」が正常に行われているかどうか、また耐粒界腐食性鋼種(低炭素型及び安定化型)がその特性を具備しているかどうかをチェックするのに用いられています。
・フェライト系ステンレスの粒界腐食
フェライト系ステンレスも正常な焼き鈍し温度により高温、特に1000度以上に加熱された後、空冷程度の冷却速度で冷却された場合に粒界腐食感受性を生じます。
粒界腐食に対して鋭敏になる温度条件などがオーステナイト系と異なるかは、フェライトという組織の中への炭素の溶解度が極めて小さく、また炭素が拡散する速度が極めて速いことによります。
クロムステンレスの粒界腐食感受性は、650〜815度に10〜60分保持する焼鈍し処理によって消失します。
ロ)孔食(Pitting Corrosion)
ステンレスの不動態皮膜が局部的に破壊されて、孔状に腐食される形態は「孔食」と呼ばれています。孔食は塩素イオンを含む溶液中で最も起こりやすく、主な環境としては次亜鉛素酸ナトリュウム(NaOCL)、塩素水、塩化第二鉄、海水、その他各種ハロゲン化物水溶液などがあります。
孔食に対する対策としては、モリブデン添加鋼(SUS316、SUS317)等や更にクロム含有量を増加した鋼種を使用することが有効である。
(「ステンレスのおはなし」日本規格協会 60P)
ハ)すきま腐食(Crevice Corrosion)
装置や機器の構造上の「すきま」部分は、その他の部分と異なり酸素の供給の不足や溶液中のイオンの濃縮によって局部電池を形成し、隙間部では不動態皮膜が破壊されやすく、局部的な腐食を生じます。特に塩素イオンを含む水溶液の場合にはこのすきま部分が選拓的に腐食される場合がしばしばあります。
すきま腐食に対する対策としては、ステンレスの不動態化を容易にするとともに、不動態を安定にする効果があるクロム量の増加やモリブデンを添加したステンレスを使用することが有効ですが、装置の構造設計ならびに施工時において、できるだけ「すきま」の形成をなくすように配慮することが大切です。
ニ)応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking)
装置、機械を組み立てるときに行われる溶接や冷間加工(室温での圧造、プレス成形、曲げ、拡管)等による残留応力及び使用時にかかる外部応力いずれでも、材料に引張応力がかかり、これと特定の環境の腐食作用によって材料に割れをもたらす現象を「応力腐食割れ」といいます。
「応力腐食割れ」はオーステナイト系ステンレスの腐食事例の中で、最も多い事例件数を占めており、この鋼種にとって使用上の最大の問題点であるとされております。
・“粒内(貫粒)割れ”と“粒界割れ”とに分類される
“粒内(貫粒)割れ”は、塩化マグネシウム、塩化カルシュウム、塩化ナトリュウム等の「高温塩化物水溶液」中で最も起こりやすく、その他塩素イオンを含む温水やスチーム並びに高温アルカリ水溶液中において発生します。
対策としては、ニッケル含有量を高めた鋼種の使用も一般的ですが、事実上、割れ感性をなくすためには効果なニッケルの含有量を40〜50%以上にする必要があるために経済性の点で問題があります。
粒界割れは、高温水(不純物として塩素イオン、酸素を含む)や高温アルカリ水溶液、ポルチオン酸などの環境中で多くの事例が見られます。材料の粒界腐食感受性が大きな要因となるので、一般には『耐粒界腐食鋼』:SUS304L、316L<321<347等の使用が薦められます。
・「応力腐食割れを防ぐ材料」以外での対策:
(1) 応力除去熱処理の実施(800〜950度加熱後徐冷)
(2)ショートピーニング施工による表面引張応力の低減
(3)電気化学的防食法の実施
(4)構造設計及び施工時において、できるだけ引張力がかからないようにする配慮
(5)使用時において塩素イオンの濃縮を防止したり、材料表面を定期的に洗浄すること、さらに出来得れば60度以下で操業すること
以上、ステンレスの局部腐食は一部の例外を除いては、環境中の塩素イオンの存在が極めて有害であることがわかります。これは塩素イオンにはステンレスの不動態皮膜を破壊する強い作用があるためで、ステンレスを使用する場合には常に塩素イオンの存在に留意することが大切です。
▼高温ガスによる腐食(乾食)
※環境によって次のような種類がある
・ガスによる腐食:乾食(Dry Corrosion)
・水溶液による腐食:湿食(Wet Corrosion)
(a) 高温酸化
鉄鋼を大気中で長時間高温にさらすと、その表面がぼろぼろになってしまいます。これは「高温酸化」という現象で高温ガスによる腐食の中で代表的なものです。
(大気中における各種ステンレスの耐用湿度を表に示す)
鋼種(SUS) |
概略組成 |
繰り返し酸化(度) |
連続酸化(度) |
304 |
18Cr−8Ni |
870 |
925 |
302B |
18Cr−8Ni−2.5Si |
970 |
1050 |
309※ |
22Cr−12Ni |
980 |
1095 |
310※ |
25Cr−20Ni |
1035 |
1150 |
XM15J1 |
18Cr−13Ni−4Si |
1035 |
1050 |
410S |
13Cr−0.08C |
815 |
705 |
430 |
18Cr |
870 |
815 |
446※ |
25Cr−N−0.2C |
1175 |
1095 |
※は耐熱鋼
(b)硫化
高温における「硫化」は、硫化水素ガスや亜硫酸ガス等の雰囲気中で起こります。環境中の硫黄が鋼の粒界及び表面から拡散進入することによって進行します。
(c)窒化
高温においてアンモニアの分解などで生じる活性の窒素ガスが鋼の表面に吸着し、これが鋼の中に拡散して窒化物を形成する現象で、侵炭の場合と同様に鋼の靭性を著しく劣化させます。
(d)高温ハロゲンによる腐食
高温ハロゲンガスは金属と反応して揮発性のハロゲン化合物形成する為にきわめて強い腐食性を示します。
(e)パナジュウムアタック(燃焼灰腐食) (Hot Corrosion)
重油や石炭の燃焼ガス中には、五酸化バナジュウム(V2O5)、硫酸ナトリュウム(Na2SO4)等が灰分として混在します。これらが鋼の表面に堆積すると鋼の表面に形成されている酸化物皮膜と反応して融点の低い化合物を生成し、表面皮膜の保護性を無くすため異常な酸化速度を示すようになります。